安部公房の『笑う月』を読了。たぶん買ったのは一年生の頃なので、読みさしのまま3年ほど放置した計算になる。
 放置していたからには読み続けるモチベーションが沸かなかったのだろうな、と半ば期待を押し殺しつつ読んでみると、これが抜群に面白い。どうしてこれを読みきらなかったのか、と過去の自分に苛立ち混じりの疑問を抱くと同時に、いや、これは今だからこそ「読めるようになった」のかもしれないな、という思考も立ち上がってくる。
 後者であるのだとすれば、つまらないと言い捨てて本棚の肥やしにしてきた漫画や小説、或いはHDDに眠るゲームたちにも、このような感動が隠されているのかも知れない。そう思い至った時、自分の浅学っぷりを鑑みて、消費したものにすら自信を持てないのか、ならば手を広げている場合ではないのではないか、という戦慄を覚える訳で。
 時間は有限であり、体験には上限がなく。途方に暮れているうちに終わってしまいそうな気がしてきた。