空を―――空を、よく見ておくといいよ(挨拶)。
 空、というのは境界線の向こう側です。手の届かない遥か高みにあって、外的な要因によって様々にその形態を変化させるもの。そこに異界を視る、というのは割と自然な感覚なのではないでしょうか。触れ得ないだけなら地中でも同じですが、見えるのに触れ得ないからこそ視えてくる景色というものは確かにあって、だから人間は空に様々なものを仮託したくなるのでしょう。それは例えば、とりとめのない想い。空想という字は、空に想うと書きます。
 遍在する空は無限の象徴でもあり、しかし日夜、その色を刻一刻と流転させる、刹那的な側面も持ちます。無限に連なっているとも言えるし、水平線で絶たれているとも言えるでしょう。こういった両義性もまた、人が視たいものをそこに視せるという特徴に少なからず寄与しているのではないでしょうか。