ひとたび放たれた言葉は己から断絶され、そこでは話者もまた聞き手の一人に過ぎない。観測されることで言葉は陰影を獲得する。そこには貴賎も巧拙もない。仮に言葉だけがいまここで生きる自分とは分かたれた道を往くのだとしても、その価値は決して減じない。ただそこに在ることのみによって言葉は価値の触媒として働きうる。変質は成長ではなく、取り残された言葉には別種の価値が残っている。忌むべき言葉があるとすれば、それは、
 
 ……高校生の時分に書いた小説を読み返したら本当にこいつ死ねよという気分になったよ、というお話。何も考えず書いたことをはっきりと憶えている、というのが致命的であった。