一面的には本を読むことは想像力を制限されることである、とは言えて、むろんそうではない読書を想定することは非常に簡単であり何よりあのキャッチコピーに憤りを/或いは落胆を覚えた向きにとってはそのようなものこそが読書なのであろうが、残念ながらあそこで掲げられている読書はそのようなものではなさそうだ。宿題の答えを覗き見るがごとく自分の人生でない人生についての知識を得ること、それをして想像力の発展を謳っているのだとすれば、随分と滑稽なことではある。
 そこで志向されているのは観念を固定し言葉を固定し広く遍く通じる共通言語を身に付けることであって、早い話が共同幻想の拡大だ。他人の人生を想像するのではなく、ありとあらゆる人生を共通のコードのもとに解することができるような手法を学ぶ。それはきっと、文学から最も遠い態度だ。