現前性を伴わない媒体で、つまり文字や音声を介して、見たこともない最高の名画を想像させることは難しい。同様に、文字や絵のみによって、聴いたことのない最高の音楽を想像させることもまた難しい。そこで提示される作品内作品の最高さを受け手に約束として了解させることは出来ても(つまり、それが最高なものであるとして作中で扱われることを了承させたとしても)、実際にその感動を追想させることは甚だ困難な仕事になる。
 だが、視覚・聴覚に関しては困難なそれが、味覚に関しては比較的容易に成立し得る。たとえば高級食材を用いたご馳走や手間暇の掛けられた一品料理に対して、僕たちはそれが未知の味覚であるにも関わらず、既知の味覚の延長線上に存在する/上位互換としてそれを想像することができる(味覚は視覚や聴覚と違い、既知の構成要素のインフレーションによって上位互換を作り出すことができる)。「人間が何かを美味そうに食う」さま、を描くことが即ち快楽に直結するのはおそらくこのためであり、絵を観る人、音楽を聴く人を描くこととは根本的に違うことがここでは起こっている。
 そのことがグルメ漫画では本質的なジャンルの強みを保証しており云々。長くなってきたので明日に続く(多分)。